2014/07/01

第7世代iPod nano FMラジオレビュー

iPod nanoとはご存知のようにアップル社の音楽プレーヤーです。今回は第7世代のiPod nano(以下、iPod nano)を取り上げます。

最近のiPodは動画再生や写真ビュアー機能、歩数計内蔵カロリー計算機(オプションで心拍計も接続可)、ブルートゥース4.0ヘッドセットに対応、現在の曲名やアーティスト名を合成音声で読み上げるなど、非常に多彩な機能を装備しています。

最も驚くのはその薄さ。高品位アルミボディをまといながら5.4ミリという驚異のスリムさを誇ります。比較の仕方があまりにも無謀ではありますが無骨な既存の受信機やトランシーバーとはまさに一線を画す万人向けの、持つものを楽しくさせる製品の一つと思います。



さて、実はこのiPod nanoにはFMラジオが搭載されています。そこでこのFMラジオの使い勝手や音質を調べてみました。

■使い勝手

iPod nanoのFMラジオにはチューニング方法に独特の遊び心が取り入れられています。一言で表すならば「デジアナチューニング」がふさわしいでしょう。

iPod nanoのFMラジオを起動すると左右頭出し表示、停止表示の上に昔懐かしいチューニング目盛りが表示されます。

このチューニング目盛りの画面表示は触れると本当にラジオの選局が可能で、思わず顔がほころぶアナログチューニングの感覚を味わうことができます。例えば指を素早く右または左へスワイプする(なぞる)とチューニング表示が素早く変わり、その後パッと手を画面から離すとチューニング目盛りが徐々に止まるというものです。


左右の頭出し表示を長押しすると放送局のスキャンが始まります。

よく聴く放送局をプリセットする機能もあります。周波数右上の小さな「☆」表示をタッチすると上の写真のようにチューニング目盛りに赤い台形の印が現れプリセットが完了し、次回の選局を容易にしてくれます。

この機能は直近のラジオで例えるならば、生産終了したソニーのFM/AMステレオラジオSRF-A300の「ポインターマーク(放送局目安)」をつける操作と同機能と言えば分かりやすい?でしょうか。
プリセット選局は左右の頭出し表示をクリックすることで可能です。もちろんチューニング目盛りをスワイプし台形の赤いマークを探す手動選局も可能です。

以上からiPod nanoの操作感はデジタル世代だけでなくアナログ世代も満足させられるほどのものと思われます。



ところでiPod nanoのFMラジオには「放送中の曲や番組を一時停止する」後追い再生機能も搭載されています。言い換えるならばラジオ放送番組を途中で少し止め、後で止めた部分から聴き始めたり放送中のラジオ放送を少し巻き戻したりする機能です。

実はFMラジオ放送局を選び終わった直後からiPod nanoは内部で番組をバッファリング(一時保存)し始めています。このバッファリングは無効にできません。そのため実放送よりも耳に届く時間が最小0.3~0.5秒程度遅れているのです。iPod nanoのFMラジオは時計をラジオの時報に合わせる用途にはどちらかというと不向きです。

放送中の曲や番組を一時停止する」後追い再生機能操作の一例ですがラジオ番組の再生を一時中断するときは本体左側面の音量ボタン+と―の間にあるくぼみ部分をクリックします。
もう一度同じ部分をクリックすると一時中断した場所からFMラジオの番組が楽しめるのです。


ここで一つ疑問が。商品説明には「最大15分前まで巻き戻して聴ける」とありますが、果たして15分以上一時停止するとどうなるのでしょうか。さっそく検証してみましょう。

15分以上一時停止状態でiPod nanoを放置した後に番組を再生すると、最後に一時停止した直後の番組内容は一瞬再生されたものの、次の瞬間すぐに現在から15分前の放送が再生され始めました。どうやら常に最新のラジオ放送をバッファリングし15分を超えた後は古いデータから削除する仕組みになっているようです。

この仕組みを知った上でiPod nanoを操れば「放送中の曲や番組を一時停止する」機能がより快適に使えるでしょう。





■iPod nanoのFMラジオの音質

推測ですがFMラジオ放送は圧縮されiPod nanoの内部でバッファリングされているはずです。もしこれが事実とするならば果たしてバッファリング時の圧縮による音質の低下はどうなっているのでしょう。

ここではソニーのICZ-R100を使い44.1kHz 192kbps MP3で録音したデータとiPod nanoのFMラジオの再生周波数特性を比べました。比較はいずれも各機器のヘッドホン端子からPCへ入力し、フリーソフトSoundEngine Freeのスペアナ機能で測定します。

まずはソニーのICZ-R100再生波形から。
17kHz周辺まで録音されているように見えます。


次にiPod nanoの再生波形。
15kHz以上の周波数が全く再生されませんでした。ICZ-R100の再生波形と比べると2kHz付近から徐々に高音域が減衰しているように見えます。確かに聴感上もiPod nanoのFMラジオは聴きやすさを損なわない程度に高音域が抑え気味に聞こえました。

iPod nanoのFMラジオ放送は128kbps以下のMP3のようなシャリシャリした音は確認できません。192kbpsのMP3でもシャリ音が顕著に現れる手持ちのコンポーネントステレオでiPod nanoのラジオを再生しても全くといっていいほどMP3特有の圧縮ノイズは分かりませんでした。


気がついたのはこれだけではありません。ステレオ感が通常のラジオで聴取する場合と若干異なるのです。これはまるでハイファイコンポのハイブレンド(ステレオとアナログの中間状態で受信し聴感上S/N感を上げシャー音を減らす)のステレオ感にきわめて酷似しています。

バッファリングデータの圧縮が仮に事実ならばiPod nanoはステレオ感を少なくする代わりにラジオの聴きやすさを重視し、加えて高音域のデータを少なくし圧縮時の聴感上の音質の劣化を抑える工夫をしていると考えられます。つまりアップルのFMラジオのコンセプトとしてはコアなファンが求めるバリバリのハイファイ感ではなく、素人でも聴きやすいと思える音作り、かといって音質面でアラは出したくないという思想と思われます。




以上まとめますと第7世代iPod nanoは操作性や機能、音質あらゆる面でアップルが工夫をこらした芸術作品と思います。

FMラジオ機能を掘り下げるだけでもAppleの思想が見えてくるものです。たかがFMラジオですが、その「たかがFMラジオ」にここまでこだわるAppleはなかなかのものと思いました。仮にもしアップルが広帯域受信機とは言わないまでもポータブル短波ラジオを出したら・・・ほぼ間違いなくすごいことになるでしょう。

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