アイコムからリリースされた広帯域受信機
IC-R8600を使い数か月経ちました。ここでは1.10ファームを入れた
IC-R8600を使用して気になったことをAORのデジタルボイスレシーバー
AR-DV1(ファーム1702D)の使い勝手も交えてメモします。
◆いいところ
大型タッチパネル液晶表示があるので人によっては説明書を見なくても比較的簡単に操作できます。
液晶表示は見た目、同社製アマチュア無線機
IC-7300よりも洗練されている印象を受けました。実際、スコープの設定変更がよりしやすくなっています。
DMRやTETRA、国内の重要な通信を除くデジタル通信の復調が可能です。
同社製広帯域ハンディ受信機
IC-R6と同程度の高速スキャンが可能です。
目で電波が探せるのは言うまでもなく、ウォーターフォールを見ているだけでも楽しいです。
AR-DV1は受信音声がすべて一つのファイルになってしまうのでタイムスタンプが使えませんでした。IC-R8600の録音機能は受信時のデータもタグに保存されるので事後確認に重宝します。
ユニデンアメリカの
BCD436HPは通話終了間際の電波も録音されジャンクファイルが大量に生成されます。その点録音機一体型のIC-R8600は事後確認がしやすいです。
IC-7300のような手動画面キャプチャーがあります。電源ボタンの短押しでファイル保存できる設定もあります。
秘話のかかった通信を除き、誤って復号されたロボット音声がほとんど出力されません。
IC-R8600で復調できる通信自体極めて少ないですが復調後の音質はAR-DV1よりも上です。
- 受信モード毎にステップとフィルターの設定を記憶する
AR-DV1は受信モードとステップを切り替える二度手間が発生するのでこれは使いやすいです。
メインダイヤルの操作方式は他のアマチュア固定機同様の無段階スムースタイプと
AR-DV1のように軽いクリック感のあるクリックタイプが選べます。
短波以下では3つの端子から選べます。
夜間運用時は便利と思いました。
低音高音が調整できます。プロトタイプで発生していた低音の音割れはリミッターで対策しています。
同期検波がロック中なのか確認できませんが、強力なフェージングが到来してもバサバサというひどい雑音や音の破綻がほとんどありません。
◆よくないところ
実機は昨年(2016年)アイコム本社で開催されたアマチュア無線フェスティバルで触った実機よりも圧倒的に重いです(下記関連記事参照)。IC-R8600の重量が4.3キロに対してAR-DV1は1.5キロです。
1か月放置するとメインダイヤル周囲のラバー部品についたホコリが目立つようになります。セロハンテープなどで剥がすとほぼ元に戻ります。部品は交換が可能となっています。
またメインダイヤルのヘアライン仕上げの溝に手垢と思われるものが目立つようになりました。AR-DV1ではこのようなことはありません。
AR-DV1も比較的発熱しますがIC-R8600もかなり熱を持ちます。ベーコンが焼けるほどではありませんが温泉卵や日本酒の熱燗はできるかもしれません。いつか実験したいですね。
※お酒は20歳になってから
短波帯以下を除き、プリアンプが切の状態では弱い電波が受信できません。
プリアンプを入にすると他の受信機とほぼ同程度となりますがノイズレベルも同時に上がります。
特に航空無線を受信しようとするとスケルチを50程度まで深くする必要があります。市販の外付けプリアンプを付けると恐らく雑音まみれになるでしょう。
ユニデンアメリカの
BCD436HPと比べると
IC-R8600のほうがSDカードの容量の消費が速いです。
AR-DV1の録音機能は実用性がないので比較対象としません。
- 446.35MHzで353MHz帯のイメージが出現する
イメージの出現はこの1箇所のみ確認しています。
AR-DV1ではこのような症状は今のところ皆無です。この周波数のイメージは手持ちの他の受信機では確認できません。
メインダイヤルを回しバンドエッジに差し掛かると音が一瞬途切れたり、一瞬だけSメーターが振れ、あるはずのない電波が表示されるように見えることがあります。仕様でしょうが気になりました。
- スコープに電波ありと表示された周波数に合わせようとすると表示されていた電波が消える
実際はないがあるように見える、所謂"お化け電波"が表示される症状です。最大±2.5MHzのスパンでスコープを表示するとこの症状が顕著に現れます。仕様でしょうが紛らわしいと思いました。
- スケルチのキレがこれまでの非SDR(アナログ)受信機と比べ良くない
弱い信号を受信するとスケルチが断続的にブツブツ開閉し続け煩わしいことがあります。プリアンプON状態が原因のひとつかもしれません。
スケルチの開閉を繰り返すとき一般的によくあるポップ音はIC-R8600ではありません。
- スコープをめいっぱい表示するとステップを変えるのが煩雑
スコープの液晶画面表示範囲(スパン幅ではなく)を最大にするとステップ表示が画面からなくなるため、いったんスコープ表示領域を小さくするかkHzオーダーの周波数表示を長押ししてステップ変更する手間が掛かります。
AR-DV1にはあるサーチバンクリンクと同様の機能が
IC-R8600にはありません。オプションのプログラミングソフトウェアCS-R8600の設定にも見当たりません。
50組のプログラムスキャンを効率よく回すためにも、プログラムスキャンのグループリンク機能追加が待ち望まれます。
- 任意のグループを複数指定(セレクト)しメモリースキャンできない
連番、例えばグループ01~19などの連番は1組だけオプションのメモリー管理ソフトウェアCS-R8600で設定可能です。しかしグループ01と03のようなグループ番号飛ばしで複数グループが指定できません。この点
AR-DV1は融通が利きます。
一方で、あるグループのうちの、あるチャンネルだけ選りすぐりスキャンする機能(セレクトメモリースキャン)はあります。説明書9-8~9-9ページにあるように9パターンが指定可能です。
- 1グループのメモリーチャンネル数が最大100チャンネルまでしか設定できない
ユニデンアメリカの
BCD436HPの1グループあたりのメモリーチャンネル数はこれまで400ほど登録実績があり事実上無制限と思われますがIC-R8600にはチャンネル数の制限があります。
- 設定完了した直後のプログラムスキャンで指定したステップが反映されない
スキャン動作を開始すると直後はメモリー登録したステップではなくVFOで設定したステップとなります。ファームウェアのバグと思われます。
スキャンエッジ登録グループを変更し別のスキャンを走らせてからメモリー登録したプログラムスキャンを再度開始すると正常に動作します。
- 数時間ほど電源切で放置すると2~6MHz周辺がしばらく受信できないことがある
例えば電源投入直前に150MHz帯FMを受信したあと電源を切り数時間放置、その後再度電源を入れなおし2MHz周辺のAMに合わせると はじめのうち他のラジオで受信できている周波数で音声がノイズだけとなりメーターも振れず、スコープにも電波がほとんど表示されない場合があります。
その後しばらくメインダイヤルをぐるぐる回し続けると、あるときいきなりふわっと信号レベルが正常に戻ることがありました。
短時間で電源を入切するとこの問題は発生しませんでした。ファームウェアのバグと思われます。
録音データでSDカード容量が満杯になった後にアンマウント操作をし、そのSDカードのデータをPCへ録音データをすべて移動し、IC-R8600の電源を入れたまま空き容量のあるはずの そのSDカードを再装填し録音を開始すると稀にSD Card Fullが出現することがあります。
バージョン1.02で修正されたバグらしいのですが、1.10でも出現しました。電源を入れなおすとうまくいきます。
- メモリースキャン中にスクリーンセーバーが指定した時間で動作しないことがある
15分でスクリーンセーバーをONにする設定をしメモリースキャンを開始すると15分経ってもスクリーンセーバーがONしないことがありました。
ファームウェアのバグと思われます。プログラムスキャンでは正常動作しているように見えます。
- スキャンで受信中の電波がなくなった後、再スキャン開始までのディレイが2秒固定
バージョン1.10のIC-R8600では通信終了後再スキャン開始するまでの時間が2秒に固定され変更できません。これはCS-R8600のスキャン設定項目のヘルプ画面に英語で明記されています。
IC-R8600左側のダイヤルAのディレイ設定はプライオリティスキャン用のディレイ変更です。
CS-R8600にScan Delay設定は1秒からありますが、これは電波を受信し受信中からスキャンを再開するまでの時間で、交信終了を待たず再スキャンを開始するオプションです。
よしおが欲しいのは電波がなくなった後にスキャンを再開するまでのディレイ設定です。
世界的に見てもDMR復調機能は必須です。この点は
AR-DV1がまだ優勢です。
これまでの短波受信機でもUSBとLSBで音の出方が異なることはありましたが、同期検波機能を入れるタイミングで受信音声の大きさが変わる受信機は初めてです。
以上ファームウェア1.10の
IC-R8600の使用感についてでした。
初期ロットでは純正の外部スピーカーSP-39ADをつなぐと雑音が発生し本来の電波が受信できなくなる不具合はありましたが、現在流通している海外向けを含む現行品は対策済みでしょう。
昨今の無線機や受信機は内部が10年前とは比べようもなくソフトウェアが複雑化しているためバグの一つや二つは致し方ないのですが、よしおはここ最近バグを含んだ製品をほぼ連続で引き当てており、面倒なバグ対応でいささか不満を覚える場合も少なからずある訳で...。
それにしても最近入手した製品は少なからず各社とも同じ傾向のバグを持っているので、結託してわざと仕込んでいるのではと勘ぐってしまいますね。
昔はソフトウェアなんてものはほぼ皆無で、現代ほど複雑ではなく目に見えて分かりやすい時代だったなぁと、かつての短波ラジオたちの一部をいくつか引っ張り出して短波放送を聴きながら
現実逃避 古き良き時代を思い出しています(笑)。
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RF-2200(左), ICF-5900(中央), RF-1150(右) |
(関連記事はこの下です)
[関連記事]
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アイコム 外部スピーカー SP-39ADプチレビュー (2017/04/29)
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AR-DV1 ファームウェア1702Dの使用感 (2017/06/19)
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【追記】アイコムアマチュア無線フェスティバル2016でIC-R8600を触る (2016/12/10)